(事案の概要) |
自立神経失調症との診断のため、3年間の病気休職の後復職したものの、病状が改善されなかったことから、病気休暇を付与した。職務能力の有無や職務復帰の可能性を判断するため、提出された1名の医師の診断に加え、もう1名の医師の受診を前後4回にわたり命じたが、分限免職処分を受けるおそれがあることから、これを拒否した。また、当時、心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、これに堪えない状態にあった。そこで、これらの事情を総合して、分限免職処分を行った。 |
(結論) |
長期の療養若しくは休養によっても治癒し難い自律神経失調症のため職務の遂行に支障があり、これに堪えず、また、配転可能な他の職務を含めて考慮しても職務の遂行に支障があり、これに堪えない。そして、受診命令を拒否するに至った経過、拒否理由にも照らすと、必要な適格性を欠くものと認められる。 また、4回にわたり職務遂行能力の有無を把握し、分限免職の要件を充たすか否かを判断するため、医師を指定して受診を命じているにもかかわらず、正当な理由なくして受診命令を拒否し続けている。 被控訴人は、適格性欠如の要件、受診命令拒否の要件を充たす職員であり、本件処分当時職務に必要な適格性を欠くことが明らかであったことが認められ、本件処分について裁量権行使を誤った違法があるものとは認められない。 |
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<勤務実績不良又は適格性欠如と評価することができる事実の例> |
個々の例の中には、同時の懲戒処分の対象となる事実も含まれていることから、当該事実を把握した町長は、分限処分と懲戒処分の目的や性格に照らして、それぞれの処分を行うかを判断する必要がある。 |
| (1) | 勤務を欠くことにより職務を遂行しなかった。 |
| | 1) | 長期にわたり又は繰り返し勤務を欠いたり、勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた。 |
| | | ア | 連絡なしに出勤しなかったり、いわゆる遅刻・早退した。 |
| | | イ | 病気休暇、年次休暇が不承認となっているにもかかわらず、病気等を理由に出勤しなかった。 |
| | | ウ | 上司の指示を無視し、資料整理に従事する等と称して出勤しなかった。 |
| | 2) | 業務と関係ない用事で度々無断で長時間席を離れた(欠勤処理されていない場合でも勤務実績不良等と評価され得る。) |
| | | ア | 事務室内を目的もなく歩き回り、自席に座っていることがほとんどなかった。 |
| | | イ | 勤務時間中に(席を外して)職場外に長時間私用電話した。 |
| (2) | 割り当てられた特定の業務を行わなかった。 |
| | | ア | 所属する係の所掌業務のうち、自分の好む業務のみを行い、他の命ぜられた業務を行わなかった。 |
| (3) | 不完全な業務処理により職務遂行の実績があがらなかった。 |
| | 1) | 業務のレベルや作業能率が著しく低かった。 |
| | | ア | 業務の成果物が著しく拙劣であった。 |
| | | イ | 事務処理数が職員の一般的な水準に比べ著しく劣った。 |
| | 2) | 業務ミスを繰り返した。 |
| | | ア | 計算業務を行うに当たって初歩的な計算誤りを繰り返した。 |
| | 3) | 業務を1人では完結できなかった。 |
| | | ア | 他の職員と比べて窓口対応等でトラブルが多く、他の職員が処理せざるを得なかった。 |
| | 4) | 所定の業務処理を行わなかった。 |
| | | ア | 上司への業務報告を怠った。 |
| | | イ | 書類の提出期限を守らなかった。 |
| | | ウ | 業務日誌を作成しなかった。 |
| (4) | 業務上の重大な失策を犯した。 |
| (5) | 職務命令に違反したり、職務命令を拒否した。(受診命令の拒否を含む。) |
| (6) | 上司等に対する暴力、暴言、誹謗中傷を繰り返した。 |
| (7) | 協調性に欠け、他の職員と度々トラブルを起こした。 |
<勤務実績不良又は適格性欠如を証明するための客観的な資料の例> |
勤務実績不良又は適格性欠如を判断する客観的な資料の例としては、以下のようなものがある。 |
| (1) | 勤務評定の記録書等職員の勤務実績を判断するに足りると認められる事実を記録又は記載した文書等 |
| (2) | 勤務実績が他の職員と比較して明らかに劣る事実を示す記録又は記載した文書等 |
| (3) | 仕事上の失敗・トラブル、苦情等の記録等 |
| (4) | 指導に関する記録、対話に関する記録等 |
| | ア | 職務命令に従わない等、職務にふさわしくない言動に関する記録 |
| | イ | 職務に必要な能力、適性、知識を有していない事実に関する記録 |
| (5) | 服務に関する記録(懲戒処分、分限処分等の記録を含む。) |
| (6) | 身上申告書、職務状況に関する報告 |
| (7) | 研修、業務の割振り変更や他の職務への配置換の結果報告 |
<実際に分限処分が行われた例> |
勤務実績不良又は適格性を欠くことを理由に分限免職が行われた例としては、以下のようなものがある。 |
| ア | 正規の手順に従って業務を処理せず、来訪者の照会に対しても必要なことを答えないなど、業務遂行に当たって常に同僚職員が応援する必要が生じ、再三の指示、指導にもかかわらず勤務実績の改善が見られず、かつ、遅刻、早退、終日欠勤などで無断欠勤を繰り返した。 |
| イ | 来訪者への対応につき責任をもって行う立場にある者が、勤務時間のほとんどを図書室において個人的な研究や勉強などで時間を過ごし、緊急時を含め、来訪者への対応態度に消極性が顕著で、来訪者や同僚の信頼を得ず、組織協働的な業務運営を困難にした。 |
| ウ | 上司・同僚・来訪者に対して、大声でその名誉・信用・人格を傷つけるような誹謗・中傷する内容の投稿をし、職員本人の業務が停滞しているだけでなく同僚職員の業務遂行まで悪影響を及ぼした。 |
| エ | 暴力を伴う言動及び意味不明な言動、職務命令の拒否、部内部外の者に対する長時間の迷惑電話、職員の業務を長時間にわたり中断させる行為などを繰り返し行い、周囲の職員、特に女性職員に対し恐怖感を与え続けた。 |
| オ | 勤務状況について上司から度重なる注意、指導を受けるとともに、懲戒処分(減給)を受けたにもかかわらず、その後も勤務意欲に欠け、遅刻等について指導した上司に対する不適切な言動のほか、出勤後、庁舎の物置等に入り、職務命令を放棄したこともあった。また、事務室において管理者に長時間まとわりつき、管理者及び他の職員の業務の正常な遂行を妨害した。 |
| カ | 課長から命ぜられた課の日常の業務及び特命の業務を行わず、課の内外を問わず大声で叫びあるいは暴言を吐くなど喧騒にわたる言動を繰り返して業務の妨害を行い、勤務時間内に職場を離脱するなどして役所やその関係団体の幹部職員のもとに赴いて執拗に面会を求め、更にこれら職員の自宅を夜間や休日に訪問して執拗に面会を求めるなどの行為を繰り返した。 |
| キ | 繰り返し懲戒処分等に付され、上司から注意、指導、訓戒を受ける等厳重に戒められていたにもかかわらず、数年間にわたって勤務時間中の飲食、雑談などや遅刻によって勤務を欠き、また、ラジオを聞きながら作業を行う、上司等に暴行を加え暴言を浴びせる、故意に作業を遅くするなどの行為を繰り返し行った。 |